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掘削承諾の黙示録

更新日:2020年8月31日

「土地を購入したいが、私道共有者から掘削承諾が取れない!」

「なんとかして掘削承諾を得る方法はないの?」


今回は、

・掘削承諾トラブルはどういう時に起こるのか。

・私道共有者の承諾が得られない場合、掘削工事は一切できないのか。

・考えられる対策はあるのか。

・対策のデメリット

についてご紹介していきたいと思います。​​​​​​​


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目次[非表示]


1.掘削承諾について




そもそも掘削承諾とはどのような時に必要となるのでしょうか。

また、問題となる場面についてご紹介します。


(1)掘削承諾はなぜ必要?


ライフラインの確保のために上下水道管、ガス管などの埋設工事や引き込み工事を行う際、 他人の土地もしくは共有の土地である私道の下を通さなければ自分の土地にガスや電気を通すことが出来ない場合があります。

(公道に面していない袋小路の土地等)


その場合、その私道の所有者もしくは他の共有者から私道の利用・掘削に対する承諾(=掘削承諾)を得てから工事を進めていく必要があります。

それは、掘削に関する承諾が得られない場合、業者が工事に着手することができず、ライフラインの工事を進めることができないためです。

(2)どんな時に問題になるのか?


問題となるのは、他人の土地もしくは共有の土地を通さなければライフラインを確保できないにも関わらず、

私道所有者もしくは他の共有者の承諾が得られない場合です。

承諾しない理由は様々ですが、嫌がらせや金銭の要求が目的の場合もあり、一筋縄では解決に至らないことが多いようです。


参考記事


2.法的救済措置について


所有者の承諾なく工事を行えば、不法行為となり損害賠償責任を問われることとなります。

(平成22年3月23日東京地方裁判所判決)


しかし、所有者の承諾が得られなければ一切の掘削工事ができないのかというと、そんなことはありません。

全てのケースに当てはまるわけではありませんが、法的な救済を期待できる場合もありますので、ご紹介します。


(1)明文規定



掘削の承諾が得られない場合の解決策について、直接規定した法律はありません。


しかし、相隣関係について規定する法を類推適用することで、私道所有者の承諾がなくても埋設掘削が認められた裁判例が多くあります。



下水道法11条1項

・・・他人の土地又は排水施設を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水施設を設置し、又は他人の設置した排水施設を使用することができる。


この場合においては、他人の土地又は排水施設にとって最も損害の少ない場所又は箇所及び方法を選ばなければならない。


民法209条(隣地の使用請求)

・・・境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。


民法210条(公道に至るための他の土地の通行権)

・・・他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。


民法220条(排水のための低地の通水)

・・・高地の所有者は、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることが出来る。 

※学説・判例は、袋地の相隣関係への類推適用も肯定している。


(2)判例


ここでは、掘削が認められた判例と、認められなかった判例をご紹介します。


<掘削を認めた判例>

多くの判例で、下水道法11条、民法209条、210条、220条の規定を類推適用し、掘削を認めています。


・他の土地を経由しなければ、当該宅地に給水を受け、下水を公流または下水道等に排出できない場合において、他人の設置した給排水施設を使用することが他の方法に比べて合理的である時は、当該施設の効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り、他人所有の給排水施設を使用することができる

[平成14年10月15日 最高裁判所判決]


・袋地に接する私道が、所有者のみならず、私道南側の土地所有者の通行や下水管敷設のためにも供されていることや、本件土地からの下水管は、本件通路部分と本件私道を通って公共下水道管に接続されるのが最も適切と認められる事情を考慮すれば、他人の土地に排水施設を設置しその土地を使用することができるとした。

[平成3年1月30日 福岡高等裁判所判決]


・宅地が「導管袋地(※注1」にあたり、民法209条、210条、下水道法11条の類推適用により、水道管を設置する権利を有するとした。

また、私道としての通行利用に争いがない場合、本件宅地への通行のほか、道路には宅地で使用するための上下水道・ガス管等を埋設することも通常の利用の範囲であるから、宅地として使用するための相当の範囲内において水道管等の設置をすることをも含むものというべきとした。

[平成15年9月29日 東京地方裁判所判決]


(※注1)

他人が所有する隣接地の上空あるいは地下に導管・引込線を通さなければ、水道・下水道・電気・ガス・電話などの本管・本線にたどり着けない土地のこと


<掘削を認めなかった判例>

個別的な事情から埋設・掘削を否定した判例もあります。


・隣接地所有者らが私道所有者の承諾なしに、

私道に埋設された上下水道を継続して使用する行為は、私道所有者の所有権を侵害し、不法行為を構成するとした。

[平成22年3月23日 東京地方裁判所判決]


・保護されるには当該建物が建築基準法上適法であることを要し、建築基準法に違反する建物の所有者が、隣接地所有者に対し、下水道埋設工事の承諾及び工事の妨害禁止を求めることは権利の濫用に当たるとした。

[平成5年9月24日 最高裁判所判決]


(3)学説


学説上、「導管袋地」の土地所有者は、隣接地所有者の同意なく当然に導管を設置できる「法定導管設置権」を有しているとしています。

ただし、侵害を受ける隣地所有者に対し償金を支払う必要がある場合があります。

要件…

①導管袋地であること 

②導管を設置する必要があること 

③囲繞地のために被害が最も少ない位置であること



3.具体的な対策

それでは実際に、掘削について承諾してくれない私道所有者が現れた際の対策について見ていきましょう。

(1)示談交渉

まずは私道所有者との話し合いになります。掘削に同意してもらい承諾書に署名・押印をもらえるよう、誠心誠意の交渉を試みることが1番の解決策です。


しかし、過大な承諾料を要求されたり拒否された場合は、次の対策を検討することとなります。


(2)民事調停


簡易裁判所へ調停を申し立て、裁判所の調停委員と共に協議を行うことになります。先に述べたような判例の見解から、掘削を承諾する方向に向かっていくことが一般的です。


しかし、相手側から協力金の支払いや交換条件(たとえば、建築プランの変更や工事の曜日・時間帯の指定など)が提示され、条件付きの承諾となる場合もあります。 調停は、第三者である調停委員が介入することで、両当事者での話し合いによる適正・妥当な解決を目的として行われます。

そのため裁判とは異なり、調停委員が何かを決定するわけではありません。 あくまで当事者の意思に基づく決定によるため、相手からの条件が受け入れられない場合や、相手がそもそも聞く耳を持たないなど、合意に至らない場合は不成立となり終結します。


(3)裁判

承諾がもらえない場合や、工事妨害がある場合、地方裁判所へ私道掘削に関する承諾請求、工事妨害禁止請求訴訟を提起することができます。

※(1)の話し合いから、(2)民事調停手続きを飛ばして裁判を起こすことも可能です。


判決については、個別的事情も考慮されるため決して安心はできませんが、過去の判例の傾向を見るに、他人所有の土地を利用して水道管等を設置することが最も適切と認められる場合、掘削や工事の妨害禁止請求が認められる方向での判決になる可能性が高いと言えます。


4.対策のデメリット

裁判で争えば、請求が認められるケースが比較的高いとはいえ、デメリットもあります。

ここではデメリットについて検討していきましょう。

(1)時間や費用がかかる


裁判を起こすとなれば、時間も費用もかかります。

裁判が長引いてしまったり、当初の予定より費用が余分にかかってしまうことにより、その物件を購入することによる事業目的を達成できない可能性があります。

(2)私道所有者との関係性が滞る


裁判で掘削承諾を勝ち取り工事を進めたとしても、当事者との間には遺恨を残すことになるかもしれません。

将来的に嫌がらせをされるなど、関係性が最悪になるケースもあります。

また、隣地ともめた形跡が残ることにより、住みにくい物件として見なされ、売買のときに買い叩かれるリスクが考えられます。


5.まとめ

他人の土地を掘削しなければ、ライフラインを通せないような宅地に家を建てる場合、私道所有者の承諾が必要となりますが、 任意の承諾が得られない場合でも、法的手段を用いれば掘削承諾が認められる方向に進むケースが多いです。


ただし、必ずしも請求が認められるわけではないので注意が必要です。

また、最終的に承諾が得られない場合は致し方ないとはいえ、できるだけ当事者同士での話し合いや調停で解決する方向に尽力することが重要です。 なお、上記のとおり、紛争になってしまうとデメリットもあります。

ですので、売買契約の解約を検討することも対策の1つです。


その為、掘削承諾が得られなかった場合の白紙解除条項を入れたり手付解除が可能な期間を長めに取るなどの工夫をし、掘削承諾が得られない場合は、解除ができるような契約をすることも、非常に重要です。 ※なお、当記事の記載情報において、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めていますが、情報が古くなったりすることもあり、必ずしも正確性を保証するものではありません。掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。


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