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実録!司法書士が見抜いた詐欺事件!(第5話)

「先生よぉ」

売主を自称する老婆の友人を名乗るあの男が、

永遠に続くかのような、しかし時間にすると

1分にも満たなかった沈黙を破った。


「さっきから何なんだ。アンタ。」

初孫を抱いていたような先程の顔とは

明らかに異なる、そしておそらくは

彼本来の表情と口調で、司法書士に詰め寄る。


「尋問でもしてるのかい?

 こんな老人がそんな早口で

 質問攻めにされたら

 答えられるわけねぇだろうが。」


「きやがったな。」


ここまでは、いい試合展開だ。


「みなさん、「愛」の反対の意味の言葉は、

 なんだと思いますか?」


JR東海道線戸塚駅。

まるで高尾山にでも来たかのような

坂道を経てようやくたどり着く、

キリスト教を教育に取り入れる大学。

そのキャンパスの一角にある、

春の心地よい日差しがゆらゆらと差し込む大教室で、

小柄で禿げた先生が50名の生徒に問いかけた。

(彼はキリスト教を信仰しているのだ。)


「・・・・・・・。」

詰め込み式の学校教育に慣れきった、

浮ついた大学一年生たちは


「自分だけはあてないでくれよ!」


と言わんばかりに目をそらし、存在を消した。


「さあ、どうですか?思いつきますか?

 「愛」の反対はなんですか?」


「憎悪ですか?それとも怒り?」

教員は続ける。


「愛の反対、それは… 無関心です。

 皆さんは、まずは周りの人たちに関心を持ちましょう。

 無関心は人を傷つけます。」

「おばあさん、私の質問にお答えいただけませんか?」


怒りと圧力で状況を変えようとする老婆の友人に対し、

無関心を装い、司法書士は老婆に詰めよる。

「あなたは、ご自分のパスポートと矛盾する発言をしましたね?

 また、この権利証、大変失礼ながら本物なのでしょうか?

 紙の質もさることながら、ところどころに脱字があります。」


「だからよぉ」


あの男が食い下がる

「何なんだよアンタは。

 権利証も身分証明もあるだろうが。」


「確認ですが、」


これまで成り行きを見守っていた買主の

不動産会社社長が、口を開く。

短く刈り込まれた頭髪に、鋭い眼光。

ゴルフ焼けでもしたかのような浅黒い肌の

経験豊富な社長は、最終の確認をする。

「先生、この書類で代金を支払うのは

 危険なんですね?」


「社長、取引をするべきではないと考えます。」


司法書士は即座に意見を述べる。


「ではこうしましょう。」


社長は、まるで交渉を楽しむかのように

余裕さえ感じさせながら提案をした。

「そのパスポートと権利証をもって、築地警察署

 ~ここから300メートルのところにある~

 に行きましょう。

 そこで、それらの書類が本物なのか見てもらいましょう。」

・・・・・・・・。


「テメェらいい加減にしろよこの野郎!」


社長の提案は、怒号によって拒否された。

つづく…。

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