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子どものいない方の遺言は「今日」から書き始めましょう― 遺言の作成日を待てずに亡くなり、相続人が16人になった事例

3 時間前
読了時間: 6分

※ 実際のご相談をもとに作成しています。


【この記事の結論】お子さんがいない方は、遺言がないと相続人が兄弟姉妹から甥姪へと広がり、相続の手続きが長期化しやすくなります。遺言を作ろうと思ったら、公正証書の準備と並行して、まず自筆証書遺言を書いておくこと。体調に少しでも不安があるなら、なおさら重要です。


■概 要

90代のAさん。生涯独身で、お子さんはいません。5人いた兄弟姉妹は皆先に亡くなり、身の回りのことは、近くに住む姪のBさんが手伝っていました。ほかの甥姪とは、何十年も会っていません。財産は、都内の自宅と、預貯金・有価証券あわせて3,000万円ほど。「お世話になっているBさんに残したい」。Aさんの意思は、はっきりしていました。


こうしたご家族は、珍しくありません。相続のご相談で「子どもがいない」「兄弟姉妹はもう亡くなっている」と伺うと、私たちはまず「遺言はありますか」とお尋ねします。理由は、この記事を最後までお読みください。


■何が起きたか

春、Bさんからご相談を受け、当事務所は公正証書遺言の作成をお手伝いすることになりました。Aさんの意思を確認し、財産を調べ、約1か月半で遺言の文案が固まりました。


Aさんは外出が難しかったため、公証人に自宅へ来てもらう「出張」での作成を進めていました。出張の場合、公証役場の日程が空くまで3〜4週間ほど待つのが通常です。作成日は、翌月の下旬に決まりました。


その作成日の10日ほど前、Aさんは急逝されました。前日まで、いつもどおりの様子だったそうです。遺言は、文案が完成したまま、形になりませんでした。


相続が始まり、Bさんから改めてご依頼を受けて、相続人の調査に入りました。Aさんの出生から死亡までの戸籍をたどると、Aさんのお父様には、Bさんが知らない前の婚姻での子が3人いることが分かりました。Aさんにとって、父を同じくする兄弟姉妹です。その3人もすでに亡くなっており、それぞれに子がいました。


調査には3か月を要し、確定した相続人はBさんを含めて16人。多くは、Aさんと一度も会ったことのない方々です。現在、全員に連絡をとり、遺産の分け方について協議を進めていますが、やり取りがスムーズでない点もあり、弁護士事務所への引継ぎを検討しています。


■なぜ起きたか ― 注意すべき2つのポイント

① 子どもがいないと、相続人は「兄弟姉妹 → 甥姪」へ広がる

お子さんも、ご両親・祖父母もいない方が亡くなると、相続人は兄弟姉妹になります(民法889条)。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子、つまり甥姪が相続人になります(代襲相続)。


つまり、高齢で子のない方の相続では、ご本人が把握していない親族までが、戸籍の上では相続人になり得ます。遺産分割協議は相続人全員の合意が必要なので、一人でも連絡がつかない、協力が得られないという状態になると、相続手続きは止まります。家庭裁判所の調停に進めば、さらに時間がかかります(弁護士事務所に依頼した場合は、費用もかかります)。


一方、遺言があればどうだったか?兄弟姉妹(と甥姪)には遺留分がありません(民法1042条)。よって、「全財産をBさんに」という遺言があれば、16人での協議は不要で、遺言の内容どおりに引き継げたのです(遺産分割協議が必要か不要かは、相続手続の負担の大小に決定的な影響を与えますので、遺言が無いことが悔やまれます)。


② 公正証書遺言は「申し込んでから完成まで」に時間がかかる

公正証書遺言は、公証人が作成する最も確実な遺言です。ただ、完成までには、文案の検討、公証人との事前のやりとり、証人の手配、日程調整が必要です(当事務所がご依頼を頂いている場合、すべて当事務所が行います)。当事務所の経験では、ご依頼から完成まで通常2〜3か月。出張作成なら日程待ちが加わり、文案の修正が重なれば、さらに1〜2か月延びることもあります。


「元気なうちに」と思い立った方ほど、今は元気でいらっしゃるためか、この数か月の間に状況が変わるリスクを軽く見がちです。Aさんのように、兆候なく急変することは、実際に複数のご依頼で起こってしまっています。


■どうすれば防げるか

1.まず自筆証書遺言を書く

自筆証書遺言は、紙とペンがあれば、その日のうちに作れます。全文・日付・氏名を自分で書き、押印する。財産目録はパソコンで作ったものや通帳のコピーでも構いません(各ページに署名押印が必要です)。2020年からは法務局で保管してもらう制度もあり、保管すれば、相続開始後の「検認」が不要になります。


公正証書を予定している場合でも、同じ内容を先に自筆で書いておく。これが「保険」になります。書き方は、自筆証書遺言のメリットと書き方の記事で解説しています。


2.そのうえで、公正証書遺言に仕上げる

自筆証書遺言を作成したのち、少し時間はかかりますが、公正証書を作成すれば、内容が抵触する部分は後の遺言が優先します(民法1023条)。自筆証書を先に書くことは、公正証書の作成の妨げにはなりません。公正証書には、形式の不備で無効になる心配がなく、原本が公証役場に保管されるという利点があります。「まず自筆、のちに公正証書」の順番で、空白の期間をなくすことが重要です。


3.遺言執行者を決めておく

遺言に遺言執行者(遺言の内容を実現する人)を指定しておくと、相続人全員の関与なしに、預金の解約や不動産の名義変更を進められます。甥姪が多数いる場合ほど、この指定が効きます。詳しくは、遺言執行者のメリットと活用方法の記事をご覧ください。当事務所の経験則にはなりますが、ご自身で作成された遺言の約半数で、遺言執行者が定められていないですが、これでは遺言の効果を十分に得ることができません。必ず遺言執行者を定めておきましょう。



■その後 ― 相続人16人との協議

Aさんの相続は、現在も進行中です。16人全員に相続関係の説明と資料をお送りし、遺産の分け方について協議を続けています。同じように多数の相続人と協議を進めた事例は、支援事例06で紹介しています。また、子どものいないご夫婦が遺言で備えた事例は、支援事例02をご覧ください。


遺言の文案はできていました。あと10日あればこの協議は要らなかったということを考えると、本当に予期せぬ事態となってしまった事例です。この記事をお読みいただいた皆様は、ぜひ参考にしていただきたいと考えております。


■まとめ

  • 子どものいない方は、遺言がないと相続人が兄弟姉妹・甥姪に広がり、面識のない親族との協議が必要になることがある

  • 兄弟姉妹・甥姪に遺留分はないため、遺言があれば、残したい人に確実に残せる

  • 公正証書遺言は完成まで2〜3か月。思い立った日に自筆証書遺言を書き、公正証書で仕上げる

  • 体調に少しでも不安があるなら、「まず自筆」を作成する


■ご相談について

遺言の文案づくりから、自筆証書の要件チェック、公正証書の作成、遺言執行までお手伝いしています。初回のご相談は1時間・無料です(ご来所またはオンライン)。相談を予約する


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